米メディアAxiosは5月26日、米国主要100都市におけるピックルボールコートの増加率が2024年の14%から2026年にはわずか4%へ急減速したと報じた。非営利団体Trust for Public Land(TPL)の最新データに基づく分析で、2017年以降ほぼ900%という爆発的成長を遂げてきたピックルボール施設整備に、初めて明確なブレーキがかかった格好だ。
コート増加率の推移——3年で14%→4%へ
TPLが追跡する米国の人口上位100都市には、現在合計3,765面のピックルボールコートがある。増加率の推移を見ると、減速の深刻さが浮き彫りになる。
| 年 | コート増加率 | 備考 |
|---|---|---|
| 2017〜2023年 | 累計約900% | 全米で爆発的な施設整備 |
| 2024年 | 14% | ブーム最盛期 |
| 2025年 | 13% | 微減だが高水準を維持 |
| 2026年 | 4% | 前年比で約70%の急落 |
TPL公園調査ディレクターのWill Klein氏は「都市はいまもコートを増設している。しかし過去2年間に見られた猛烈なペースではなくなった」と説明する。
背景——自治体の財政難と「施設の奪い合い」
減速の背景には、自治体の財政事情がある。Klein氏は「地方自治体は逼迫する予算、老朽化するインフラ、そして多種多様なレクリエーション施設への需要増加のバランスを取らなければならない」と指摘した。
ピックルボールコートの建設は、既存のテニスコートの転用を含め、他のスポーツ施設との競合を生んできた。ボルダー市では専用12面コートの着工をめぐりテニス愛好家との摩擦が表面化しており、限られた公共用地の配分は全米共通の課題だ。
ガーデン・ディスクゴルフが逆に伸長——公園の多様化進む
| 施設タイプ | 2026年増加率 |
|---|---|
| ガーデン(コミュニティ菜園) | +8% |
| ピックルボールコート | +4% |
| ディスクゴルフコース | +4% |
| 屋外フィットネスゾーン | +3% |
注目すべきは、ガーデン(コミュニティ菜園)が+8%と、ピックルボールの2倍のペースで伸びている点だ。ディスクゴルフも+4%、屋外フィットネスゾーンが+3%と、公園のアメニティが多様化している実態が見える。自治体は「ピックルボール一択」ではなく、複数の住民ニーズに応える方向へ舵を切りつつある。
業界の反応——「終焉」ではなく「成熟」か
Axiosの見出しは刺激的だが、業界関係者の見方は分かれる。
TPL Will Klein氏は、減速を「ブーム終了」ではなく自治体の予算・インフラ事情による構造的な鈍化と分析。ピックルボールの人気自体が低下したとは述べていない。
民間投資サイドでは、ApolloがDandon Enterprisesに2.25億ドルを投入し企業価値7.5億ドルのエコシステムを構築するなど、商業施設への資金流入はむしろ加速している。公共と民間で温度差がある構図だ。
施設チェーンのThe Picklrは日本で20施設展開を計画しており、グローバルでの拡大路線は継続している。
日本への影響——「米国モデル」一辺倒のリスク
日本ではピックルボール施設の整備が緒に就いたばかりだ。大阪・堺市や東京タワーなど新規施設のオープンが続く一方、米国の公共施設依存モデルがそのまま参考になるとは限らない。
米国の減速が示唆するのは、公共施設整備だけに頼ると自治体予算や住民の施設ニーズの変化に左右されるというリスクだ。日本においても、民間運営・会員制モデルと公共施設の併用が持続的な普及の鍵になるだろう。
ピックルボール産業全体への波及
コート増加率の鈍化は、用具メーカー・レッスンプロ・大会運営など関連産業にも影響する。新設コートが増えなければ初心者の参入ペースも鈍化し、市場全体の拡大シナリオが修正を迫られる可能性がある。
ただし2017年以降の累計約900%成長で積み上がった3,765面という既存インフラは健在だ。新設ペースが落ちても、既存コートの稼働率向上・プログラム充実によって競技人口は伸び続ける余地がある。「建設フェーズ」から「活用フェーズ」への転換と捉えれば、必ずしも悲観一色ではない。
関連情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| データ提供 | Trust for Public Land(TPL) |
| 調査対象 | 米国人口上位100都市 |
| 現在の総コート数 | 3,765面 |
| 報道元 | Axios Sports(Alex Fitzpatrick記者) |
| 記事公開日 | 2026年5月26日 |
まとめ
米主要100都市でピックルボールコートの増加率が14%→4%へ急落した事実は重い。ただし、これは競技人口の減少ではなく、自治体予算の制約と公園施設の多様化による構造的な鈍化だ。民間投資は依然活発で、The Picklrの日本展開やApolloの大型出資など、商業セクターはむしろ攻めの姿勢を強めている。「ブームの終焉」と見るか「成熟期への移行」と見るかは、公共と民間どちらの視点で見るかによって大きく変わる。