同じコート、同じ顔ぶれなのに、そのゲームにDUPRが付くかどうかで空気がまるで変わる。ホーチミンでベトナム人中心のソーシャルに定期的に入れてもらっていて、いちばん面白いと思っているのがこの落差だ。以下はプロでもコーチでもない一人のプレーヤーが、自分の当たった範囲で感じたことにすぎない。個人的な見解として読んでほしい。
スコアが付いた瞬間、同じ相手が別人になる
和やかな枠と、そうでない枠
私が入れてもらっているソーシャルでは、DUPRに登録するゲームとそうでないゲームがはっきり分かれている。DUPRが付かないゲームは、驚くほど和やかだ。こちらがしょうもないミスをしても一緒に笑ってくれるし、初対面でも自然に混ぜてもらえる。
ところがスコアがかかった途端、同じ人の表情が変わる。1本のミスで本人が苛立つ場面もあると聞くし、実際、ゲーム中の口数と集中の密度が明らかに違う。悪い意味ではなく、勝負ごとに対して真剣なのだと思う。
数字が重いから、真剣になる
背景を知ると腑に落ちる部分がある。DUPRの発表によれば、ベトナムは登録者数で世界の上位5か国に入り、月ごとの伸び率はプラットフォーム内で最も高い。DUPRは2026年4月にアジア初の地域拠点をホーチミンに開設している。2025年1月のFacolos Champion 2025は、300人以上が参加して全結果をDUPRに送った国内初の大規模大会だった。ここではDUPRの数字が、参加できる枠や実力の証明に直結する。数字が重いのだから、真剣になるのは当然だった。
この落差が分かってから、私は枠の選び方を変えた。体を動かしたいだけの日や、初めて行くコートで顔つなぎをしたい日は、DUPRの付かない枠に入る。逆に自分の現在地を測りたい日は、あえてスコアの付く枠に申し込む。同じ「ソーシャル」という言葉でも中身が別物なので、募集ページでDUPRに登録するかどうかを先に確認しておくと、その日の期待値がずれない。
ラインジャッジは、自分で主張しないと通らない
プレー面より先に慣れが必要だったのがここだ。私が当たった範囲では、ジャッジがかなりルーズなことがある。
インに見えた球が「アウト」になる
自分側に落ちた球のコールは、その側のペアが持つ。だからこちらがインだと思っても、相手側が「アウト」と言えばアウトとして進んでいく。審判はいない。納得できないときは、その場ではっきり言うしかない。黙って流すと、同じ判定が同じ試合の中で繰り返される。
こちらの自己申告が押し返されることもある
逆のパターンもある。明らかにアウトだったので自分から申告したのに、「いや、入っていた」と相手が譲らないことがあった。相手を立てて引き下がりたくなるが、ここは毅然と対応したほうが結果的に気持ちよく続く。
競技ルール上は、判断に迷う球は相手有利に「イン」とするのが原則で、「見えなかった」ことを理由にリプレイを求めることはできない。つまり自分の側のコールは自分の責任で、相手のコールには口を出さないのが建前だ。この原則自体はコートのマナーの記事にまとめてあるが、現場ではその建前どおりに進まない場面がある、というのが実感だ。
コート脇メモ:DUPRの数字は「信頼度」とセットで見る
DUPRには数字とは別に、その数字がどれだけ当てになるかを示す信頼度スコアがある。DUPRは60%以上を信頼できる水準としていて、それ未満は参考値に近い。レーティングが落ち着くのはある程度の試合数を記録してからで、DUPR自身も「記録を始めた直後や長いブランクの後は調整期にあたり変動が大きい」「試合を重ねるほど1試合あたりの影響は小さくなる」と説明している。何試合で安定するかまでは公表されていないが、始めたばかりの数字ほど大きく動くと思っておいたほうがいい。相手の数字を見るときは、この2つをセットで見ておくと期待値がずれにくい。
スピードボールとロブ。当たった範囲でのプレースタイル
プレーの傾向は当然その人によるので、ここは特に個人の印象として読んでほしい。それでも何度か打っていると、共通して感じる形がある。
ひとつは、速い球が多いこと。ディンクのような細かいやり取りもきちんとやるのだが、少しでも打てる高さがあれば迷わず叩いてくる。じっくり組み立てて崩す展開より、甘い球が来たら決めにいく発想が強い印象だ。
もうひとつはロブ。前で詰まって苦しくなると、頭を越す球で一度リセットしてくる。守りの手段としてロブが普通に選択肢に入っている。だから前に詰めきったつもりでも、後ろを空けたままにはできない。私はこれに何度もやられて、下がる準備とオーバーヘッドを意識するようになった。
| 感じた傾向 | 受け手としての備え |
|---|---|
| 浮いた球は迷わず叩いてくる | 中途半端な高さで返さない。低く沈める意識を優先する |
| 苦しくなるとロブで逃げる | 前に詰めても後ろを完全には空けない。パートナーとカバーを決めておく |
| ディンクの応酬にも付き合う | 先に雑になったほうが叩かれる。焦って上げない |
DUPR3.0が「3.0らしくない」のはなぜか
いちばん驚いたのはレベル感だ。DUPRが3.0前後の相手でも、ベトナムではかなりの強敵になることがある。数字から想像した強さと、実際に打ったときの手応えが噛み合わない。
数字が実力に追いついていない
理由のひとつは、レーティングそのものの性質にあると思っている。DUPRの3.00〜3.99は中級の帯だが、記録した試合数が少ないうちの数字は暫定に近く、実力より低く出ていることがある。競技人口が短期間で増えた市場では、始めたばかりで数字が実力に追いついていない人がそれだけ多い。ベトナムのコートで数字より強い相手に当たりやすいのは、この状態が起きているからではないか、というのが私の見立てだ。
条件を切った枠に飛び込んでみる
プレーヤーとしては、これはむしろ好都合だった。強い相手と当たる回数が多いほど練習になる。ホーチミンにはDUPRで参加条件を切っているソーシャルもあり、たとえばタオディエンの002 Pickleball Clubは3.0以上を対象にした枠を火曜と木曜の夜に出している。条件を満たさない場合はホストの判断次第という運用だ。同じクラブには3.5以上を対象にした枠もあるし、4区のD’luckyのようにコートごとにレベルを分けて3.5以上の面を用意しているところもある。
日本で同じレベル帯の相手を安定して見つけようとすると、まず人数の壁がある。ホーチミンでは週の決まった曜日に決まった枠が立っていて、申し込めばその日のうちに同格以上と何ゲームもできる。コート代を払って強い相手と打てる環境が、曜日単位で用意されている。私がベトナムでの練習環境を良いと思っているのは、コートの数より、この「相手が見つかる」ことのほうが大きい。
ベトナムで打つ前に、コートと現地の作法を確認しておくとスムーズです。
まとめ
私がホーチミンで入っているソーシャルでは、DUPRが付くかどうかでゲームの温度がはっきり変わる。判定は自分で主張する前提で臨み、速い球とロブを想定しておけば、あとは楽しいだけだ。数字より強い相手に当たりやすいことも含めて、練習相手に困らない環境だと思っている。
エリアごとのコートの違いはホーチミンのコート事情に、コート代の目安は料金相場に、予約のやり方はZaloで予約する記事にまとめてある。
(文・小島怜/ベトナム在住)

