ピックルボールの国内競技団体が主催する大会が、どこまで規模を伸ばせるのか。その現時点での答えが、2026年8月11〜16日にイギリス・バーミンガムのNEC(国立展示センター)で開かれた英オープン(English OPEN)だ。主催はPickleball England。ワンフロアに60面を敷き詰め、主催者は3000人超の選手登録を目標に掲げた。会場を借りるだけでなく、育成リーグから当日の運営まで一団体が設計している点が、日本のプレーヤーや大会運営に関わる人には参考の芯になる。
日本国内の大会が数十人〜数百人規模で回っている段階から見ると、桁がひとつ違う。ただ、その差は競技人口だけでは説明できない。会場の選び方、募集の組み方、団体の関わり方に、伸ばすための仕掛けがある。
ワンフロア60面、3000人という目標の中身
会場はNECのホール6・7・20を連結し、60面のProFlexコートを一つの巨大アリーナとして敷いた。Pickleball Englandは2026年に3000人超の選手登録と6000超のイベント登録を目標に設定している。2025年の実績は選手2350人、イベント登録4321件で、前年の会場から一段引き上げた形だ。参加者は2025年時点で45か国から集まっており、英国内大会でありながら国際色が濃い。
ここで押さえたいのは、3000人が「達成済みの実数」ではなく募集の目標値だという点だ。60面という物理的な受け皿を先に確保し、そこに人を集める順番で組んでいる。コートが足りずに人を断る国内大会の悩みとは、発想の向きが逆になっている。
305人から2350人へ、6年で7倍の登り方
この規模は一足飛びに出来たわけではない。英オープンの参加者は2019年の305人から2025年の2350人へと、6年でおよそ7倍に増えた。年ごとに会場を段階的に大きくし、最終的に英国最大級の展示施設であるNECにたどり着いている。
伸びの背景には、団体が一枚岩で普及と大会を同じ線上に置いてきたことがある。日本でも競技団体の整備は進み、日本ピックルボール連盟がJSPO(日本スポーツ協会)の承認を受けて五輪に向けた階段の一段目に立った。連盟がJSPO承認を得たこの動きは、英国が6年かけて踏んだ道の入口に近い。承認は器の話であって、中身の年次成長をどう設計するかはこれからの宿題になる。
約120ブラケットとユニティカップが捌く人数
3000人を1会場で戦わせるには、組み分けの技術が要る。英オープンは年齢別の各種目を3.0・3.5・4.0・4.5・OPENの技量別に割り、合計でおよそ120のブラケットを用意している。70歳以上は年齢のみのカテゴリーにするなど、年代と技量の二軸で細かく分ける設計だ。
加えて、全年代を一日に束ねるユニティカップ(Unity Cup)というチーム戦を別立てで置いている。個人のブラケット戦だけだと初中級者は上位者に当たって早々に消えがちだが、団体戦の日を挟むことで「勝ち負けに関わらず一日は楽しめる」導線を作っている。人数が増えるほど初参加者の満足度をどう保つかが鍵になり、その解が種目の細分化とチーム戦の併設だ。
日本最大は20面、埋められない差より真似できる設計
日本のプレーヤー目線で60面の数字を受け止めると、まず思うのは「そもそも会場がない」という現実だろう。国内で常設のピックルボール会場として最大級なのが、テニスコートを改修した伊豆稲取の20面で、英オープンの3分の1にとどまる。一過性のイベントでも、八王子の体験フェスで最大24面という規模感だ。
ただ、面数の差をそのまま埋める必要はない。真似できるのは会場選びの考え方の方だ。英オープンは競技施設ではなく展示会場を借り、床材を持ち込んでコートを作った。日本でも大型の展示ホールや体育館を数日単位で押さえれば、常設20面を超える面数を一時的に組める。国内でも競技団体の体制が整いつつある今、恒久施設を待つより、既存の大箱に床を敷いて年に一度の大会を段階的に育てる筋の方が現実的に見える。
今すぐ持ち帰れる論点
- 会場は競技専用にこだわらない。展示ホールに床材を持ち込む方式なら、常設面数の上限を一気に超えられる。
- 参加枠は「先に器、後から人」で組む。募集目標を面数から逆算すると、断らずに済む設計になる。
- 年齢×技量の二軸ブラケットに団体戦を足す。初中級者の一日の満足度が、翌年のリピートを左右する。
- 数字は年次で伸ばす前提で設計する。英国は6年で7倍。単発の大会に終わらせず、会場を毎年一段上げる計画を持つ。
英オープンの60面は、いきなり狙う数字ではなく、305人から積み上げた6年の到達点だ。日本の大会運営者がまず取り組めるのは、次回の会場を今より一段大きい箱に移し、年齢と技量で組を割り、団体戦の日を一日足すこと。この三つは面数が二桁でも今日から設計できる。世界最大の室内大会が示したのは、規模の大きさそのものより、規模を毎年更新し続ける手順の方だ。

