今季ここまで女子ダブルスで無傷の25勝0敗を続けてきたニュージャージー・ファイブス。その本命チームを、MLP(メジャーリーグ・ピックルボール)の中間トーナメント決勝でセントルイス・ショックが3勝0敗のストレートで下した。会場はミシガン州グランドラピッズ。日本ではまだ団体戦フォーマットの面白さが伝わりきっていないが、この一戦にはピックルボールの「個人競技では起きない番狂わせ」が凝縮されていた。しかも、女子ダブルスで世界女王アンナ・リー・ウォーターズ(ALW)が今季初黒星を喫している。世界最強のプレーヤーがいても、団体戦なら勝ちきれない——それを示した試合だ。
無敗チームが一日で崩れた中間トーナメント
MLPは個人戦ではなくチーム戦だ。男子ダブルス、女子ダブルス、混合ダブルスを組み合わせ、勝った試合数でチームの勝敗が決まる。個人がどれだけ強くても、ペアの相性やラインナップの組み方ひとつで結果がひっくり返る。今回のニュージャージー・ファイブスは、その落とし穴にはまった側だった。
ファイブスの女子チームは、この中間トーナメントに25勝0敗という無傷の記録を引っさげて乗り込んでいた。個人成績で言えば断トツの本命である。ところが決勝でセントルイス・ショックに一つも取れず、3-0で完敗した。無敗記録が続いていたぶん、崩れるときは一気だった。
ALWに今季初の女子ダブルス黒星
この日いちばんの見どころは、女子ダブルスでのケイト・フェイヒーとアンナ・ブライトのペアだった。二人はアンナ・リー・ウォーターズとジョージャ・ジョンソンの組を11-6で退けた。ALWにとって、これが今シーズン女子ダブルス初の黒星である。
ALWは実力・話題性ともに現在のピックルボール界の中心にいる。以前紹介した通り、球が来る前に予測して動く独特のセンスが強さの源泉で(球が来る前に勝つALW、世界女王の強さはサッカー脳だったで触れた)、単純な打ち合いでは崩しにくい。その相手を、チーム戦という舞台でフェイヒーとブライトが仕留めた。個人ランキングでは測れない勝敗が生まれるところに、団体戦の醍醐味がある。
3位決定戦とスタンディングの行方
男子ダブルスでもショック側のヘイデン・パトリキンとゲイブ・タルディオが力を見せ、混合を含めた総合力でセントルイスが押し切った。3位はコロンバス・スライダーズが確保し、3位決定戦でLA・マッドドロップスを3-1で下している。
注目したいのは大会後の順位表だ。優勝したセントルイス・ショックと敗れたニュージャージー・ファイブスは、シーズン通算のスタンディングポイントでともに93点に並んだ。決勝で完敗しても年間順位では首位争いから脱落しないのが、MLPの複雑で面白いところだ。次の決着は約3週間後のオーランド大会に持ち越される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 優勝 | セントルイス・ショック(初制覇) |
| 決勝スコア | ショック 3-0 ニュージャージー・ファイブス |
| 女子ダブルス決着 | フェイヒー/ブライト 11-6 ウォーターズ/ジョンソン |
| ファイブス女子の記録 | 大会前まで25勝0敗 |
| 大会後スタンディング | ショック・ファイブスとも93点で並ぶ |
| 3位 | コロンバス・スライダーズ(LAに3-1) |
「1試合完敗=敗退」ではない設計の妙
個人戦に慣れた目で見ると、決勝で0-3の完敗を喫したチームが年間首位に並んでいる状況は奇妙に映るかもしれない。だがMLPは、単発の勝敗だけでなくシーズンを通した積み上げでプレーオフ進出を争う設計になっている。だからこそ強豪チームは、真夏のプレーオフに照準を合わせて中盤戦の勝ち負けを織り込む余裕を持てる。この点は、MLP強豪が6月に勝ちすぎない理由、狙いは真夏のプレーオフで触れた「ピークをどこに持ってくるか」という発想とつながっている。今回の敗戦も、ファイブスにとっては致命傷ではない。
ニュージャージー・ファイブスは連覇の実績を持つ運営巧者でもある(NJ Fives連覇が映すMLPのチーム運営と興行設計の妙)。一度の完敗でチームの底力が消えるわけではない点は、団体戦を追ううえで押さえておきたい。
日本のファンが持ち帰りたい視点
日本のピックルボールはまだ個人戦・ペア戦の大会が中心だ。だが競技が根づいた先には、チーム戦という別の面白さが待っている。世界最強クラスのALWが黒星を喫したように、団体戦は「一番強い選手を封じれば勝てるわけではない」構造を持つ。ラインナップの組み方、ペアの相性、勝負どころでの選手起用——プレーの巧拙とは別の駆け引きが勝敗を左右する。
MLPを追うなら、個々の試合結果だけでなくシーズン全体のスタンディングと合わせて眺めると、格段に面白くなる。同じセントルイス・ショックが別の通常戦でも勝利を挙げていた件はセントルイス・ショック連覇、MLP団体戦が面白い理由にまとめており、今回の中間トーナメント制覇と読み比べると、このチームの強さと団体戦フォーマットの奥行きがより立体的に見えてくる。次のオーランドで、93点で並んだ2チームがどう決着をつけるのか。ここからが本番だ。

